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「農作業をしてみたい」と 「人手が足りない」をつなぐ援農制度が 共同生活を通して人と人とを結ぶ。

ワーキングホリデー飯田(長野県飯田市)

掲載日2018年01月17日

シニア世代だけでなく、女性や若者に農的な暮らしに対する関心が高まっていると言われている。都会で生活する人たちが、農業という仕事や場所へ参加することについてレポートする。

農業人口の減少と高齢化が進むなかで、
農業の魅力を伝える長野県飯田市の取り組み

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後藤さん(左)と受け入れ農家の皆様

日本の農業就業人口(※)の減少と高齢化が年々進行しており、深刻な問題となっている。農林水産省の「農業構造動態調査」によると、2000年に約389万人あった農業就業人口は16年には約192万に減少し、平均年齢も61.1歳から66.8歳へと上昇している。
今後もこの傾向が続くと予想されるなか、農業の持続的発展のためには担い手の確保が急務となっており、そのために国や地方自治体はさまざまな施策に取り組んでいる。

今回紹介する長野県飯田市は長野県の最南端に位置し、豊かな自然のなかで年間を通じて野菜や果物、生花など、さまざまな農産物を生産している。なかでも市田柿と呼ばれる干し柿は、全国1位のシェアを誇る。
しかし飯田市も他の地域と同様に、農業をはじめとした第一次産業での労働力不足と高齢化、遊休荒廃地の増加などの問題に直面している。

そのような状況のなかで飯田市では1998年より『ワーキングホリデー飯田』と称した取り組みを実施している。
この『ワーキングホリデー飯田』は、「農業に関心のある人や農業に取り組んでみたい人と、農繁期の手助けを必要としている農家を結びつける“援農”制度」である。
大きな特長は、参加者が受け入れ先の農家で寝食を共にしながら、農作業を行うこと。つまり参加者が農作業を手伝う代わりに、農家は食事や宿泊場所を提供する仕組みである。
この参加者をお客さまとして迎えるのではなく、家族同様に普段の生活のなかで滞在してもらうスタイルが注目され、受け入れ農家は121戸までに拡大し、これまでの参加者数はのべ6,929名(うち17年4月から10月の間における、のべ参加者数は270名)にのぼっている。(2017年10月現在)

15年より『ワーキングホリデー飯田』の事業を担当している後藤さんは、参加者と受け入れ農家を結ぶ橋渡し役として日々奔走している。
「20年の歴史のなかで、参加される皆様のニーズも少しずつ変わってきていますし、受け入れ農家の意識にも変化がみられます。双方の声にしっかりと耳を傾け、参加者の皆様にはかけがえのない経験をして帰って欲しいですね」(飯田市 産業経済部 農業課 農業振興センター係 後藤さん)

※過去1年間に従事した仕事が、農業のみの者および他産業に従事していても年間従事日数において農業従事日数のほうが多い者の人数。

さまざまな世代、さまざまな立場の人々が、
“お手伝いしたい”気持ちを胸に農家の扉をたたく

『ワーキングホリデー飯田』では参加者の通年受け入れのほかに、農繁期となる春と秋にそれぞれ2回ずつ3泊4日での受け入れを行っている。
秋のワーキングホリデーも例年同様11月2日~5日と11月23日~26日に実施され、全国各地から集まった88名の参加者がのべ42軒の受け入れ農家の元で、りんごや野菜の収穫、干し柿の加工などの作業で汗を流した。

「農業に興味があり、初めて参加しました。
この経験を今後の生活にも活かしていきたいです」

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初めての参加となる愛知県名古屋市在住の長田さんは、普段はメーカーに勤務し、管理会計業務に従事している。

「学生の頃から漠然と農業に興味がありました。社会人も4年目に入り、数字と向き合う毎日のなかで、ある日ふと『こんな天気がいい日には、外で仕事がしてみたいな』という思いが湧いてきたんですね」。趣味は母親の影響を受けて始めた登山とテニスというスポーツ好きな長田さんは、ワーキングホリデーに参加したきっかけをこう語る。

長田さんは今回、野菜農家の元でネギの収穫と出荷前に葉や根を落として形を整える作業を行った。

「11月の長野は時折雪が降ったりして、朝晩が寒くて驚きました。でも、無心になって収穫の作業をしているうちに汗も出てきて、とても心地よかったです。ネギが畑からどうやってスーパーに並ぶのかも知ることができ、いい体験をすることができました」(長田さん)

「今回の経験を活かし、これからも色々なことにチャレンジしていきたいです」と語る長田さんは、ネットサーフィンで見つけた『ワーキングホリデー飯田』の記事を読み、すぐに参加を決めたという。

この「やってみよう」という行動力は、今後の長田さんのライフスタイルを見つけるパワーの源泉となっていくであろう。

「定年後の人生を考えて訪れた飯田の地に2つ目の住まいを構えました」

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たわわに実ったリンゴを慣れた手つきで収穫するのは、すでに10回以上参加している愛知県名古屋市在住の山下さんだ。
山下さんは17年の春に長年務めた専門商社を退職したが、現役で仕事をしている頃から『ワーキングホリデー飯田』の制度を利用し、飯田市を訪れていたという。

「50代に入ってリタイア後の人生を真剣に考えるようになったとき、この制度を知り参加しました。飯田市の自然や人々のやさしさに触れ、すっかり夢中になってしまいました(笑)」(山下さん)

現役時代から「リタイア後は田舎で趣味の農作業をしながら暮らしたい」と考えていた山下さんだが、『ワーキングホリデー飯田』がきっかけとなり、今では名古屋市に家族と居を構えながら、飯田市で農家から空き家を借り受け、“行ったり来たり”の生活を続けている。現在は趣味でスモモの栽培を行いながら、『ワーキングホリデー飯田』にも参加し、農家をサポートしている。

第二の人生を考えるにあたり、同じ思いをもつ人々に何かアドバイスはあるかとの問いに、山下さんは「いくら本を読んだりネットを見たりしても、それだけでは何も始まりません。実際に足を運んで自分の目で確かめることが大事なんです」と笑顔で語ってくれた。

初めて参加した長田さん、参加するうちに家まで借りてしまった山下さん、さまざまな人々がさまざまな想いをもって、『ワーキングホリデー飯田』に参加している。参加者の約60%はリピーターとなり、再び飯田の地を訪れるといい、このことからもこの制度の魅力がうかがえる。

単なる人手不足解消のための制度ではない、心の通ったお付き合い。

丸井グループイメージ

受け入れ農家の松村さん(左)と参加者の長田さん(右)

現在『ワーキングホリデー飯田』には121戸の農家が登録しており、キュウリやレタス、ネギなどを栽培する野菜農家を営む松村さんは、17年2月から参加者の受け入れを始めた。

「先に登録をしていた知人から、参加者の受け入れを依頼されたことがきっかけです。まだ期間は短いですが、すでに30余人の参加者を受け入れています」(松村さん)

松村さんが何よりも驚いたのは、老若男女問わずほとんどの参加者が本当に一生懸命働くことだという。

「収穫時期などの農繁期には、この制度でお手伝いしてくれる人がいて、本当に助かっています。それと同じくらい以前来てくれた人が再訪してくれたり、定期的に手紙をいただいたりネットワークが広がっていくことがうれしいですね。大変なこともありますが、今後も受け入れ農家として活動していきたいと思います」(松村さん)

『ワーキングホリデー飯田』の魅力は豊かな自然のなかで農家の人々とふれあい、農作業を実体験できることにある。

「これからもたくさんの人々に来ていただき、飯田市を“第二のふるさと”や“遠い親戚の住む地域”のように感じていただきたいですね」(後藤さん)

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