shape
  • Report
  • まちづくり

自分自身が楽しいと思える場所をつくりたいという情熱が、瀬戸内の島に新しいコミュニティを生む。

二地域居住による離島まちづくり(兵庫県姫路市家島諸島)

掲載日2018年02月15日

定住人口が減少し、地域の担い手不足が深刻な問題となるなか、その地に居住していないながらも異なる形で地域づくりに参加する、新たな市民の姿についてレポートする。

長坂聡さん

長坂聡さん

学生時代から続く熱いヨットへの想い

ハードな仕事をこなし、オフタイムには颯爽と海原を駆ける富裕層……。ヨットマンにはそんな漠然としたイメージをもつ人が多いのではないだろうか。
「いえいえ。全然そんなことないんですよ」と、システム開発会社に勤務するエンジニアの長坂聡さんは、やさしい関西弁と親しみやすい笑顔でそう語る。大阪府内に住み、毎日大阪駅前の勤務先まで片道60分を電車で通う、勤続25年のいわゆる普通のビジネスマンだ。

大学時代は名門のヨット部に所属し、エンジン・船室がなく、風力のみで進む「ディンギー」と呼ばれるヨットを操っていた長坂さん。しかし、練習中のケガが原因でドクターストップがかかり、1年という短い期間で退部することとなってしまった。
その後は持ち前のバイタリティで、ドライブや車いじり、スキー、オートキャンプをはじめとしたアウトドア、DIYなど、多彩な趣味を楽しんできた長坂さんが自分のエンジン付きのヨットを購入したのは今から11年前。

「社会人になってからも、途中でヨット部を辞めてしまった想いと、音もなく岸辺をスーッと離れる感覚が忘れられず、夏になるとクルマの上に廉価で小さなディンギーを積んで琵琶湖に行ってたんです。その後、私も結婚して子どもができ、家族でディンギーに乗ったり、キャンプ遊びを楽しんでいました。子どもが小学校低学年になった頃でしょうか、日本のエーゲ海と呼ばれる岡山県牛窓町を訪れた際に宿泊したペンションでサンセットクルージングに参加したとき、子どもが『大きいヨットはいいなぁ。パパこれ買って』というんですよ。しめた!と思いましたね。実はヨットを手にするために私が入念に計画した作戦だったんですよ(笑)」(長坂さん)

そこからの長坂さんの行動は早かった。すぐさま事前に下調べをしていたヨットを購入し、最短で一級船舶免許を取得してしまったのだ。
「ヨットは普通のビジネスマンには手が出せないと思っている人が多いと思いますが、少しだけいい車を購入・維持する程度の費用で十分に楽しむことができます。皆さんにヨットをもっと身近な乗り物だということを知ってほしいですね」(長坂さん)

ヨットを愛し、海を愛し、島を愛する
長坂さんが出会った家島諸島の「海の家 改修プロジェクト」

「その後、時間を見つけては家族や仲間たちと瀬戸内海のクルージングを楽しんでいたのですが、2015年9月に偶然Facebookで家島諸島での『男鹿島 海の家 改修プロジェクトはじめます』という投稿を見つけたんです。家島周辺はいつもヨットで立ち寄っていたので、興味をもち、夫婦で参加することにしました」(長坂さん)

この記事を投稿したのは家島諸島を拠点に、いえしまコンシェルジュとして活動を続ける中西和也さんだった。

家島諸島へは大阪から約120分、姫路から約60分

家島諸島へは大阪から約120分、姫路から約60分

家島諸島は瀬戸内海播磨灘に浮かぶ、家島・坊勢島(ぼうぜじま)・男鹿島(たんがじま)・西島をはじめとした大小40の島々で構成される。
採石と漁業を主な産業とし、姫路港から連絡船で約30分と関西圏からのアクセスの良さから行楽シーズンには海水浴やまち歩きなどを楽しむ人々が数多く訪れるが、全国の離島と同様、家島諸島でも人口減少や少子高齢化の問題を抱えている。
大阪府出身の中西さんはそんな島の現状に歯止めをかけるため、iターンして家島に移り住み、移住希望者へのアプローチや、他地域からまちづくりに参加してもらうための仕掛けづくり、多くの人に島の魅力を伝える取り組みなど、さまざまな活動を行っている。

長坂さんが参加した「海の家 改修プロジェクト」もその一環として企画され、廃業して10年近く使われていなかった海の家を半年間全5回のワークショップで修復し、新しい活用法を考えようというもの。
プロジェクトには毎回20人以上の参加者が集まり、清掃や草刈り、壁面の塗装などに汗を流し、美しい姿へと生まれ変わった。

「若い参加者が多数を占めるなか、ヨットに乗って夫婦で登場した長坂さんには驚かされましたし、プロジェクトの今後に活動の幅が広がりましたね」(中西さん)

プロジェクト終了後も、コアメンバーが中心となり運営・改修は継続され、現在はコアメンバーの活動拠点や二地域居住施設として活用されている。
長坂さんもプロジェクトに共に参加した奥様をはじめ、家族の理解と協力もあり、2017年には月1回~2回のペースで島を訪れ、コツコツと改修を進めている。また、夏季シーズンには親族揃って遊びに来ることが定例となっているという。

「ハンモックを吊るすためのテラスを自作したり、観葉植物を植えたり、薫製体験キットを提供したり……。自分自身が楽しい!また来たい!と思える場所じゃないと、自信をもってお客さまを呼べないですしね。今後も新鮮な魚介類だけでなくコアメンバーそれぞれがハード面でもソフト面でもさらに魅力的なものを創出し、将来的には観光客が存分に楽しめる施設にできたら最高ですね」(長坂さん)

取材当日には、長坂さん同様、改修プロジェクトのメンバーとして活動を続けていた内藤大樹さんも島を訪れていた。
内藤さんは、兵庫県神戸市でアミューズメント機器の開発を行う企業に勤務しながら、時折島に来ては長坂さんとともに新しい遊び方を考えたり、海の家の改修をコツコツと続けているという。

「デスクワークの毎日なので、オフタイムはその環境からできるだけ遠くに身を置きたい私にとって、この島の環境はまさに天国です。時間のあるときは、こうして島を訪れ、音楽を聞いたり、バーベキューをしてリフレッシュしています。今日は婚約者の父からもらった山わさびを裏庭に植え、ブーメランは投げると本当に戻ってくるのかを試しにきました(笑)」(内藤さん)

内藤さんにとって長坂さんはどういう存在かと問いかけると、「大阪に住んでいるのに、姫路に船を係留し、瀬戸内海で遊んでいるなんて、いい時間の使い方をしているおじさんだと思いませんか?年齢差はありますが、同志という感じですね。一緒に活動することが島のまちづくりにつながるのなら、こんなうれしいことはありません」と長坂さんとつくったハンモックに揺られながら答えてくれた。

内藤さん(手前)と

内藤さん(手前)と

「島に住む人」と「島に通う人」が
共に“まちづくりの苗”を植える

いえしまコンシェルジュ・中西さんと島内を歩いていると、島の人々が気さくに声を掛けてくる。その光景を見ながら、「私のような島外に住む人間を島の人々は同じ島民のように快く迎えてくれます。こうして自由に改修プロジェクトを進められるのも、中西さんのこれまでの活動と人柄があってこそなんです」と長坂さんは語る。

「私たちの役目は、島に“まちづくりの苗”を植えること、つまり、居住地を問わずさまざまな人々が集うことができるきっかけづくりをすることです。『男鹿島 海の家 改修プロジェクト』では長坂さんをはじめとしたコアメンバーが、プロジェクト終了後もその苗に水をやり、樹を育て実をつくろうとしてくれています。そしてこの活動を好事例として、また新しいプロジェクトがスタートしようとしています。これからも家島諸島全体にさまざまな苗を植え、その一つひとつに長坂さんたちのような“新しい形の島民”が集まってくれて、まちがさらににぎやかになるといいですね」(中西さん)

いえしまコンシェルジュ中西さん(右)と

いえしまコンシェルジュ中西さん(右)と

returnTOPButton
smartJoinStyle_sidebar