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  • 第2のふるさと

都会に暮らす人々と協働での地域活性化が、
地縁・血縁のない場所に新しい郷土愛を育む。

シンクタンク勤務 西山 典仁

掲載日2018年06月15日

鳥取県に、東京で暮らす人をアドバイザーとして迎え、共に地域活性化に取り組む自治体がある。その想いに共鳴し、鳥取を“第2のふるさと”と呼ぶ人の姿をレポートする。

大都市に暮らす人々が地域の課題解決に取り組む
地域交流型プログラム

東京都渋谷区を拠点に2005年から活動を続けている認定NPO法人サービスグラントという団体がある(※)。このサービスグラントは、ビジネススキルや専門知識をもつ人=プロボノワーカーと、社会的課題解決に取り組む非営利組織(NPO・地域活動団体など)を、プロジェクトを通じてつなぐ「プロジェクト型助成」を行っており、累計約4,000人以上のプロボノワーカーが登録し、これまでに約600以上のプロジェクトを実施した実績をもつ。

サービスグラントについて

認定NPO法人 サービスグラントHP(http://www.servicegrant.or.jp/program/)より

サービスグラントでは、2012年より「ふるさとプロボノ」というプログラムを展開している。このプログラムは、東京や大阪といった大都市で活動するプロボノワーカーが、地方に出向いて、その地域の課題解決やまちづくりを支援する地域交流型プログラムだ。

2014年には鳥取県のとっとり県民活動活性化センターと協働で「ふるさとプロボノin鳥取」がスタートし、鳥取にある3つの団体を対象にして3チームが編成され、プロジェクトが実施された。
※活動開始2005年、設立は2009年、認定NPO法人取得日は2016年。

初めて訪れた土地で取り組む
「しゃあまけ笑会」プロジェクト

今回紹介する西山典仁さんも、プロボノワーカーとしてこの「ふるさとプロボノin鳥取」に参加した一人だ。

ランニングを楽しむ西山さん

「私の30歳代は、仕事と子育てに没頭し、大変充実したものでした。そして、数年前に40歳という節目を迎えて子育てが一段落したのを機に、何か新しいことにチャレンジしたいという想いが湧き上がりました。そこで出会ったのがランニングとNPO活動への参加だったんです。NPO活動に心が向いたのは、30代後半に仕事を通じて、北海道から沖縄・奄美大島に至るまで、日本全国のNPO活動に携わる方々と接する機会があり、そのなかでNPOの活動に興味をもつようになり、いずれ何らかの形で関わりたいなと考えるようになったこともあると思います。以降、私の人生のなかには『家庭・仕事・NPO活動・ランニング』という4つの四季が巡っていて、それぞれ一つに偏ることなくバランスよく関わっていくことで、生き生きと毎日を暮らすことができているんだと実感しています」(西山さん)

サービスグラントの代表を務める嵯峨氏の講演を聴いたことがきっかけで、プロボノワーカーに登録したという西山さん。車いすバスケットなどのスポーツを小学校の授業のなかで広めていく団体や、東京都日野市の住民とNPOとをつなげる団体のサポートなどに携わったが、そんな西山さんに「鳥取で2期目の『ふるさとプロボノ』をやるんだけど、参加してみない?」とサービスグラントのスタッフから声がかけられた。

「47都道府県のうち鳥取県と大分県、長崎県だけ訪れたことがなかったんです。『行ったことのない土地に行ける、なんてラッキーなんだ!』と、すぐに参加を決めました(笑)」(西山さん)

「しゃあまけ笑会」プロジェクト活動風景

西山さんが参加したのは「しゃあまけ笑会」プロジェクト。このプロジェクトは、鳥取県倉吉市にある約1300年の歴史をもつ関金温泉を守り、次世代に引き継いでいこうというもの。その足掛かりとして西山さんをリーダーとし、休業中の老舗旅館をリノベーションすることからプロジェクトはスタートした。

約半年にわたった活動のなかで現地調査やヒアリングなどを実施し、マーケティング基礎調査は終了した。また露天風呂を机付きの足湯に改良するなど一定の成果を上げ、以降は現地のNPOが主体となって活動を継続していくこととなった(2018年6月現在、「しゃあまけ笑会」プロジェクトは都合により活動を休止中)。

アドバイザーとしてサポートするうちに
育まれてきた鳥取への想い

そんなある日、サービスグラントと協働して、このふるさとプロボノを鳥取で推進しているとっとり県民活動活性化センターから、西山さんに依頼があった。

「私の鳥取での活動は、プロジェクト活動期間である半年間で終了したと思っていたんですが、『今後はプロボノプロジェクトを自立して運営していく予定なのだが、アドバイザーとしてサポートしてくれないか』という言葉をいただいたんです。今までそういう経験はなかったですが、東京から鳥取と約700kmも距離の離れた人間に対して、基本的にはリモートでの支援とはなりますが、年に何回かは現地での活動を行うために、交通費や滞在費を捻出してまで呼んでくれることは率直にうれしかったですね。その他のプロジェクト参加と並行しながらにはなりますが、自分のできる範囲で精一杯協力させてもらおうと思いました」(西山さん)

オンラインで打ち合わせや会議を続けながら、年3回のペースで2年間、計7回鳥取に足を運んでいるという西山さん。訪れる度に鳥取への想いが深まっていったという。

「私は週に3回程度は朝5時に起きてランニングをするんですが、鳥取でも観光地はもちろん、さまざまな場所を自分の足で巡りました。また、スタッフをはじめ皆さんが本当に鳥取を元気にしようとがんばっている姿を見るうちに、すっかり鳥取の土地と人々が好きになってしまったんです」(西山さん)

西山さんは長野県長野市で約250年の歴史をもつ10代続く家に次男として生まれた。その影響もあってか、「東京から長野までどの位距離があるのか体感してみたくて、16時間かけて自転車で走破したこともある」というほど、郷土に強い思い入れがあると語る。
そんな西山さんは、ふるさと納税の制度がスタートしてから、毎年欠かさず長野県内へ納税を続けており「長野以外にふるさと納税はしない」と公言していたほど。

「そのはずだったんですが、昨年は鳥取県倉吉市にふるさと納税しました。2016年に鳥取県中部地震が発生し、幸い死者はありませんでしたが、倉吉市の白壁土蔵群などに大きな被害が出ました。現在の活動拠点が倉吉市にあることもあり、そのニュースを聞いて、私にできることはやろうという想いでした」(西山さん)

“第2のふるさと”からみえてくる
「関係人口」の可能性

「西山さんにとって鳥取という場所は何ですか」と問いかけると、「生活の場は東京、故郷は長野、そして鳥取は第2のふるさとです」という答えが返ってきた。

現在、総務省や地方自治体では「関係人口」創出の取り組みが始まっている。
この関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人を指したもので、この関係人口に着目した施策に取り組むことの重要性が議論されている。

西山さんのケースも、地縁も血縁もなかった鳥取という土地に、プロボノを通じて接点ができ、人々との関係や土地への想いが醸成されていった結果、“第2のふるさと”となった好例といえるだろう。

地方の人口減少抑止や地域活性化の施策として、移住推進がフォーカスされがちであるが、このような取り組みを通じて「関係人口」を増やすことで、地域活性化やまちづくりが行えるという新たな可能性を感じることができるだろう。

西山 典仁

慶応義塾大学卒業。学生時代にタイのNGO活動に従事するなどNGOやNPO活動には以前から興味を持つ。1995年大学卒業後、東京銀行入行。2002年に日本生産性本部に入職。40歳を機に自らのキャリアを模索する中で、プロボノ活動とランニングを開始。プロボノは現在6つ目のプロジェクトが始動し、NPOの中期重点計画作成支援の責任者を務める。フルマラソンは2018年3月に自己ベストを更新し、2時間51分14秒と2017年度年代別ランキングにおいて10,429人中、97位と100位以内にランクイン。2児の父。

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