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実践者から学ぶ「関係人口」創出

     

掲載日2019年02月15日

地方自治体による関係人口の創出事業実施事例を紹介する『実践者から学ぶ「関係人口」創出セミナー』が開催された。今回はその内容をプロジェクト参加者の声とともに紹介する。

国を挙げての取り組みがスタートした
『「関係人口」創出事業』

近年、地方では人口の減少や少子高齢化といった問題が顕著となっているが、そのなかで注目されているのが「関係人口」という言葉だ。
この「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉で、各自治体が直面している“地域づくりの担い手不足”という課題を解決する人材となることが期待されている。

国は、今後この「関係人口」を軸にして、地域外からの交流をさらに増やすことが必要だと考え、地域に関わりを持つ人々が地域づくりを担う機会を提供したり、地域課題の解決に意欲を持つ地域外の人々との協働実践活動に取り組む地方公共団体を支援するモデル事業を『「関係人口」創出事業』として2018年よりスタートさせた。

初年度の『「関係人口」創出事業』モデル事業には、全国各地から数多くの応募があり、そのなかから30の団体がモデル事業として採択された。

2019年1月、採択団体のうち島根県益田市と熊本県南小国町の2つの自治体が招かれ、『実践者から学ぶ「関係人口」創出セミナー』が開催された。今回はその内容をレポートする。

【ケーススタディ1】
「高津川流域都市交流促進プロジェクト」
(島根県 益田市・津和野町・吉賀町)

日本一の清流と評価を受けた実績がある高津川の流域にある、益田市・津和野町・吉賀町の3市町では、これまでも首都圏の都市や大学と連携し、教育・産業・スポーツ・芸術等の分野でさまざまな交流が行われてきた。
「高津川流域都市交流促進プロジェクト」は、この都市交流の取り組みをさらに推進し、地域内の人材と地域外(首都圏)の人材の協働によって、地域の課題解決を目指し実施された。

都内でのチラシの配布やウェブサイトでの告知等によって、プロジェクトの周知とメンバーの募集が行われ、事前説明会には数多くの参加者が集まり、その後の募集を経てマーケティング、IT、デザイン、食、などさまざまな分野で活躍する15名のメンバーが選出された。

高津川流域の3市町では主に2つの課題解決を目指している。1つは東京の羽田空港間を毎日2往復定期運行されている萩・石見空港の利用を促進し、首都圏との交流を活性化すること。2つ目は水質日本一を誇る高津川に代表される豊かな自然環境と、アユ・わさび・西条柿などの地域産品・地域資源を活用し、都市交流を促進していくことにある。

プロジェクトメンバーは約3か月の期間で東京での4回のワークショップと2回の現地調査を通じて、①地域を学ぶ ②地域資源を活かしたアイデアの提案 ③アイデアの具現化プランと都市交流という枠組みに仕立てていくための方策を練る ④都市交流プランの策定というワークフローに取り組んだ。

プロジェクトの最後には成果報告会が実施され、「高津川の水辺空間を活用したイベントによる交流」「首都圏のサイクリストをターゲットとした交流」「教育やセカンドライフ支援を目的とした交流」「高津川のブランディング」「都市交流のしくみづくり」の5つのプランが発表された。

成果報告会には100名を超える地域住民が参加し盛況を呈したものとなった。また、報告会終了後も多くの参加者が会場に残り、それぞれのプランについての質疑や実現に向けた相談が行われるなど、具体的な取り組みに向けた検討が始まったものもあるという。

プロジェクトメンバーの声
「益田市を本当に良くしたい」という
熱量と想いをもった方々との出会いが財産に
立川 仁美さん

「2018年の9月までオランダで暮らしいて、プロジェクトの募集も偶然ウェブサイトで見つけて海外から応募したんです」と語るのは現在千葉県に暮らす立川さんだ。

「今回の経験は、私にとっていい意味で裏切りの連続でした。私は以前から地域貢献に携わってきたのですが、その経験のなかで『地域の活性化ってこういうものだ』と勝手に思い込んでいたところがあったんですね。今回のプロジェクトでメンバーの方々との自主勉強会やコミュニケーションを通じて『こういう考え方もあるんだな』と新しい発見を数多くすることができました」(立川さん)

今回のプロジェクトでは「交流人口」から「関係人口」に移行するまでのハードルが高いと感じ、ウェブサイトを通じた交流プランを提案したという。
はじめて益田市を訪れたという立川さんに、改めて益田市の魅力を聞いてみた。

「もちろんきれいな自然やおいしい料理といった魅力もあるんですが、私は益田市を本当に良くしたいという熱量と想いをもった方々に一番魅かれました。今回益田市をはじめ高津川流域にある課題やトピックに関わらせていただいたことは、自身にとってすごくエキサイティングな体験でした。自分の仕事に照らしてもすごく勉強になりましたね。プロジェクト終了後も益田市との関わりを大切にしていきたいと思っています」(立川さん)

【ケーススタディ2】
「南小国観光まちづくりプロジェクト」
(熊本県 南小国町)

熊本県南小国町は、九州の中央部、熊本県東北部の阿蘇郡に位置する人口約4000人の町で、黒川温泉旅館を中心とした観光業のほか、農業、林業を主な産業としている。
しかし一方で、宿泊施設への観光客の来訪が農林業等ほかの産業に十分な経済効果を及ぼしているとはいえず、地域産業間のギャップが生じるなど、温泉旅館ビジネスから地域の産業への波及効果を生み出していくことが課題となっている。
また、温泉旅館以外の観光スポットが少ないため、町内への滞在時間が短く、地域全体で滞在型の観光地づくりを行っていくことも目標となっていた。

そこで南小国町では、2018年7月「上質な里山」をコンセプトに、観光を基軸としながら地域商社の機能を併せ持つ法人『SMO南小国(※)』を設立し、これまで以上に地域経済の活性化に取り組もうとしている。

しかし、人口減少・高齢化によって地域の担い手が不足するなか、地域内の人材のみでは十分な成果を上げることは難しくなってきていることから、地域課題解決の施策を計画・実行できる人材を都市部に求め、南小国町の地域資源を活かした観光関連ビジネスの立ち上げや地域のプロデュース・マネジメントを『SMO南小国』とともに取り組んでもらえる仕組みづくりを目指し「南小国観光まちづくりプロジェクト」は実施された。

ウェブサイト等を通じた告知により事前説明会が開催され、その後の募集期間を経て15名のプロジェクトメンバーが選出された。プロジェクトメンバーは、東京での4回のワークショップと2回の現地視察を行い、約3か月間に渡って「南小国観光まちづくり」のプランニングに取り組んだ。

プロジェクトの最後には南小国町でメンバーによる発表会が開催され、南小国町長や黒川温泉の代表をはじめ、現地活動で交流した町民たちの前で一人10分のプレゼンが行われた。農林業や畜産業の振興を目指したプランや、滞在型の観光地づくりを目指したプランなど、それぞれの経験や知識を活かしたプレゼンは4時間に渡り続いたが、出席者全員が最後まで退出することなく熱心に耳を傾け、発表会終了後は質疑も活発に行われた。

今後はここで提案されたプランの実現に向けて実施体制等を検討中だという。

※南小国版DMO。DMOとは、観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人を指す。SMOはSatoyama Marketing/Management Organizationの頭文字をとったもの。

プロジェクトメンバーの声
プロジェクトへの参加したことで
「何よりも自分がリフレッシュできた」
土肥 純門さん

熊本県出身で現在は東京都に暮らす土肥さんは、参加したきっかけを「縁とゆかり」だと語る。

「現在は東京に暮らす高校のクラスメイトと南小国町のプロジェクト担当者が知り合いだったんです。ある日酒席でクラスメイトから今回のプロジェクトの話しを聞き、これは何かのご縁だと思い応募しました」(土肥さん)

地域が抱えるさまざまな問題に対して当事者意識をもって取り組むことに最初は苦労したと語る土肥さんだが、社会課題の事業化という視点から杉を使う事業や温泉と農業を絡めた事業など複数プランの提案を行った。

振り返るとプロジェクトへの参加したことで「何よりもリフレッシュできた」と語る。

「地元の方々とともにお酒を飲み、懇親を深められたことが本当に楽しかったですね。そういう日常では得られない経験、体験が心身のリフレッシュにつながったのだと思います」(土肥さん)

さまざまなビジネスを手がける土肥さんは、今回のプロジェクトに参加したことで「地域が抱える課題の洗い出しと、それをクリアにするための取り組むワークショップでの経験は、仕事面においても気付きにつながった」という。

「これから南小国に自分の拠点を作り、プロジェクトで知り合った方々とのネットワークを活かしながら、本格的な事業化を目指して活動を始めていきます。郷土のために貢献できるきっかけをつくることができたらと思います。」(土肥さん)

今後も期待される『「関係人口」創出事業』モデル事業の活用

今回のセミナーでは2つの地方自治体による実施事例紹介のほかにパネル討論なども行われた。
全国の自治体からも多数の出席があり、「関係人口」への取り組み事例とその効果についての関心の高さがうかがえた。

プロジェクトを単年で終わらせるのではなく、継続して続けることで、独自に地域と関わる人材が生まれているケースも増加している。

次年度以降も実施が予定されている『「関係人口」創出事業』モデル事業を各自治体が有効に活用し、地域がさらに活性化する施策が数多く生まれていくことを期待したい。

立川 仁美

東京都生まれ、関東育ち。4年間の民間企業勤務後、公共分野への関心から官民連携を推進する一般社団法人へ転職。現在は海外ビジネス展開の支援を行う組織で働きながら大学院に通う。大学院生活では“気ままさ”を謳歌していたが、「高津川流域都市交流プロジェクト」に参加し、改めてプロジェクト立ち上げの面白さを実感。任意団体化される高津川MA・TSU・YO!プロジェクト(https://www.facebook.com/matsuyo.takatsugawa.shimane/)もよろしくお願いします。

土肥 純門

大学卒業後プロのジャズ・ミュージシャンを夢見ながらパチンコ店に勤務していたという少々ユニークな経歴を持つ。夢破れてからは総合商社や外資IT企業でビジネス自体を作る仕事を経験し、現在は2018年7月に自身の会社を沖縄豊見城市に設立。シングルマザーの経済的地位の向上、子供の貧困という非常に難しい社会問題への取り組みと地域経済の活性化を模索し始める。今回の関係人口創出プロジェクトを通して故郷熊本にも新たな法人設立を計画中。“地域活性化+教育+ICT”の組合せで急速に進む少子高齢化社会にマッチした新たな仕事のスタイルを推進している。

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