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地方公務員でありながら、社会人として、市民として
新しいまちづくりの先駆者となる。

川崎市職員    奥貫 賢太郎

  

掲載日2019年05月15日

フランス留学での経験を礎に、“まち”と“市民”の最良の姿と関係を、仮説の立案、実践、検討・検証を繰り返しながら追求する地方公務員の活動を紹介する。

税金だけに頼らないまちづくりを実践していることが評価され、
『地方公務員アワード2018』を受賞

地方自治体を応援するメディア『Heroes of Local Government』が開催している『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード』というアワードをご存知だろうか。

地方自治体では組織のなかで高い成果を上げている人々が多数存在しているが、行政業務には地味で目立たない仕事も数多く、その成果やノウハウに光があたる機会は多くない。

そこで、このアワードでは地方自治体職員の他薦をもとに、活躍する現役の自治体職員が審査を行い、「本当にすごい!」と思われる地方自治体職員を表彰するという取り組みを行っている。

今回紹介する奥貫さんは、昨年開催された『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2018』において、「プライベートでまちに出て、市民と一緒に、税金だけに頼らないまちづくりを実践している」ことが評価され、『地方公務員アワード2018』を受賞した一人だ。

2019年5月25日、川崎大師門前広場を会場に
開催される『大師ONE博』

「私の地元である川崎市大師町で『大師ONE博(だいしわんぱく)』というイベントを企画しているんですが、2019年5月25日にいよいよ開催が迫ってきましたので、現在はその準備に奔走しているところです」(奥貫さん)

『大師ONE博』の準備を進める奥貫さん

この『大師ONE博』は、奥貫さんが「川崎大師で新たなまちの姿をつくり、活気づけたい』という想いから、自ら企画立案し実行委員会を立ち上げたもの。川崎市職員としての業務ではなく、プライベートでの活動だ。
リーディングイベントとなる『ほしぞらディスコ ♯家族で踊る夜』は、参加者それぞれが装着したワイヤレスヘッドホンから流れる音楽で踊るサイレントディスコという新しいスタイルを取り入れた。周りに音が漏れず騒音リスクを軽減させ、まちなかの広場をディスコとして利活用する。それにより、子育て世代をメインターゲットにした「日本初!家族のためのサイレントディスコ」として川崎大師門前で行われる予定だ。

「私も一歳になる子どもの父親なんですが、子育ては大変なのに、ストレス発散の場 が少ないことを日々感じていました。仮にどこかに出かけてストレス発散しようとしても、子どもを預けて行かなければならない。そんな実体験から『家族が一緒になって地域で遊べる場を創出したい』と思ったのがこのイベントを企画した発端ですね」(奥貫さん)

奥貫さんは行政とは違ったスタイルで、公共のなかで必要とされるサービスや文化はないか、市民に共感・共鳴が得られるものができないかを検証するフィールドとして『大師ONE博』を企画したと語る。資金集めにはクラウドファンディングを活用し、募集開始からわずか一週間で目標金額を達成することができたという。

「地元の商店街や町内会の皆さん、そしてまちのシンボルでもあり、厄除け大師として広く知られる川崎大師にもご理解ご協力いただくことができました。今からイベント当日が本当に楽しみです」(奥貫さん)

フランス留学時の経験がきっかけで
“まち”と“市民”の関係に興味を抱く。

2010年から川崎市役所で勤務し、現在は2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの事前キャンプの受入・準備業務を担って多忙な日々を送っている奥貫さんは、なぜこのような取り組みを行うようになったのか。

大学時代に外国語学部でフランス語を学んでいた奥貫さんは、フランス留学時の体験が川崎市役所に入庁し、行政に携わろうと思ったきっかけになっていると語る。

「フランスという国に憧れを抱いて留学したんですが、実際に現地で暮らしてみる と、フランス人の利己主義にショックを受け、好感をもつことができませんでした。その一方で『社会は自分自身でつくるものだ』という考えのもと、それぞれが市民としての自分の権利を意識し、行動している姿には非常に感銘を受けたんです。同時に、そのパーソナリティは国際的に好感を持たれながら、社会やまちに対して自らアクションを起こすことが少ない日本人との大きなギャップを感じるようになりました」(奥貫さん)

問題があればまちの議会や行政に向けて直接働きかけるフランス市民の姿を目の当たりにした奥貫さんは、さまざまな課題に直面している日本の地方自治体で、この経験を活かしたいと考え、川崎市の職員となった。

公務員としてやらなければならないこと、
公務だけでは気付けない社会課題に取り組むこと

「『衣食住』という言葉がありますが、このなかで衣服と食べ物は比較的嗜好性が高く、自分の好きなものを選びやすい環境にあると思います。しかし、まちを含めた広義の住まいはこの2つと比べて選択の自由度は低いですよね。他の2要素に比べて、就職や結婚などライフステージの変化によって左右されやすい点、選択機会そのものが限定的かつ高コストになりやすい点は考慮すべきですが、私はそのなかで『住』のもつ意味や可能性はもっと広げられるのではないかという仮説を持っています。“まち”と“市民”という2つの立場で、「よりよい姿とは何か」、その仮説を立て、ずっと検討・検証を続けているんです」(奥貫さん)

「フランス留学をきっかけにして“まち”と“市民”が、どういう関係であればベストなのかを探求したいという欲求が常にあるんです」と奥貫さんは笑う。
公務員の立場では検証できない仮説は、例え個人で取り組んででも結論を導き出したいというのだ。

奥貫さんは先に紹介した『大師ONE博』以前にも『まちづくりカフェ』や『かわさき市民しきん』など、川崎の“まち”と“市民”を活かしたプライベートでの活動を続けてきた。

「公務員という仕事をしながら、さまざまな活動にチャレンジすることには不安もありましたが、実際に行動して得ることのできた経験や実績は何物にも代え難いと思っています。公務員とは別の役割や肩書きをもつことで、視野は大きく広がりましたし、この経験は公務員の仕事にも少なからずフィードバックされていると思います」
(奥貫さん)

公務員として税金を使って取り組むべき課題の解決、公務だけではなかなか気付くことのできない潜在的な課題の探索。この2つに同時に取り組んできたからこそ、多様な価値観や考え方に気付くことができるようになったと奥貫さんは語る。

自身が共感できること、興味が湧くことに参加することで、
新しい人との関わりや、多様な視点が生まれる。

最後に奥貫さんに「これから何か活動を始めてみたいと考えている人にアドバイスはありますか?」と訪ねてみた。

「“0”の状態から自分1人であれこれスタートするのではなく、最初はすでにスタートしている活動のなかから、自身が共感できること、興味が湧くことに参加してみることはいかがでしょうか。0からモノコトを生み出す労力に比べ、効率が抜群に良く、また、さまざまな知見をもった人々と関わり、多様な視点を得ることは、大切な経験になります。そうこうしていると、自分が解決しないとヤバい!という責任感を帯びた課題がひょっこり現れる時があり、そこに対して自分がもがいた“検証履歴”は、唯一無二の財産になります。私も既存の活動への参加からスタートし、自分発の小さな検討・検証の積み重ねにより、“しこう”(思考・試行)の切れ味を鍛え、『大師ONE博』という現在150名以上が参画・応援するプロジェクトの主催に至れたのだと感じます。」(奥貫さん)

仮説を立て、それに基づき実践し、検討・検証を行い、また新たな仮説に基づいて新しいことにチャレンジする。それを繰り返すことで、まるで進化の系統樹のように次々と新しいコミュニティやネットワークを生み出し、そこで生き生きと活動する奥貫さんの姿は、新しいSmart Join Styleのカタチといえるだろう。

私たちには公務員に対する漠然とした先入観や固定観念があるかもしれないが、冒頭 で紹介した『地方公務員アワード』にもあるように、今後は公務員のなかから奥貫さんのような人が次々と誕生し、地域コミュニティの新しいあり方を創造・発信する人材が増えていくことを期待したい。

奥貫 賢太郎

川崎市職員。東京大学テクノロジーリエゾンフェロー修了生。市職員10年目。市民協働事業、東大出向、特区・産官学連携プロジェクト管理を経験し、現在、オリンピック・パラリンピック推進室にて勤務。
一方、プライベートでも、新たな価値創造に向け、組織横断のチーム編成と、社会実験/社会実装に明け暮れる。行政と市民の対話の場「まちづくりカフェ」や、コミュニティ財団「かわさき市民しきん」の組織運営などに携わり、新たに組織する「大師ONE博」で新プロジェクト実行中。株式会社ホルグ主催『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2018』受賞。

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