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“利他性”を引き受ける“自己超越ビジネス”の世紀へ

(社)CSV開発機構理事長/(株)ユニバーサルデザイン総合研究所所長    赤池 学

  

掲載日2019年06月17日

「Smart Join Style」で20回にわたり連載してきたライフスタイルのケーススタディは今回で最終回となる。最後に株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所代表取締役所長である赤池 学氏にその総括として寄稿をいただいた。

2050年、50歳になるある青年の物語

「Smart Join」とは、1人の個人が、複数の仕事や居住地、コミュニティなどに、しなやかに所属するライフデザインを意味している。このサイト連載も今回で20回を迎え、協力事業者である(社)CSV開発機構の理事長の立場から小括を依頼され、これから望まれるライフデザインについて、拙いメッセージをお伝えしたいと思う。その導入は、2050年に50歳になる、ある仮想の青年の物語から始めたいと思う。

2000年に生まれた主人公は、2020年を迎えて20歳になった。通う大学は、私学の美術大学。情報デザイン学部に籍を置きながら、VR、ARを含めたコンテンツデザインを学んできた。東京オリンピック・パラリンピックが開催され、インバウンド向けの情報サービスやDMOシステムを実見し、リクルーティングサイトから、印刷会社と情報通信会社を、就職先として選び出した。

晴れて情報通信会社に就職した主人公は、半年間の研修を経て、グループのシンクタンクに配属された。与えられた業務は、再生可能エネルギーのクラウドマネジメントビジネスの開拓。酒席で、スキューバダイビングが趣味であることを上司に伝えたことが契機となったのか、次に配属されたのは、沖縄の離島の風力発電マネジメントオフィス。風況をAIで解析制御しながら、効率的な電力供給を形にする実証プロジェクトに取り組んだ。

このプロジェクトの成功が認められ、主人公は海外勤務を命じられる。場所は、近代的な都市と手つかずの自然生態系の双方を持つマレーシア。都市のスマートビルと自然遺産地域の双方に、風力発電基盤の整備とマネジメントサービスを実証し、社会実装するプロジェクトに参画する。そこで出会ったのは、日本の地方都市出身の一歳年上の女性上司。二人は恋に落ち、お互いに結婚を意識するようになる。

近代都市化を国策として進めるマレーシアだが、地方では未だ、他のアセアン地域と同様、医療基盤、子供たちの教育基盤の未整備が顕在化していた。日本では、年間400万人の子供が生まれているが、アセアンでは年間、同じ400万人の子供たちが、飢餓や事故、小児疾患で亡くなっている。学んできたAIのノウハウを、小児医療の世界で活かしたいと結婚を契機に本社に戻り、小児医療の専用AIシステムの開発に着手するようになる。

妻の出身地にある総合小児病院と連携し、さまざまな特定小児疾患のディープラーニングシステムの開発を手掛ける一方で、地方の農業の脆弱さを痛感し、ICTを駆使した「精密農業」を学び始める。女性や若者が集まるベンチャー系の農業生産法人と関わるなかで、セカンドキャリアのデザインに目覚め始めた主人公は、情報通信会社を早期退職。農業生産法人にR&Dの責任者として再就職した。

農業、飲食、観光。いずれの分野でも、人と自然とAI・ロボティクスとの協調が、ビジネスの大前提として定着するなかで、地域財を活用した「農家オーベルジュ」の開設を契機に、林業事業者、ビルダー、ゼネコン、観光事業者、そして行政との繋がりと信頼を得た主人公は、農業生産法人の技術顧問に就任すると同時に、複数の異業種企業とも技術顧問契約を締結。メタインカムを形にし、大企業時代を上回る収入を手にすることになる。

各地で勃発した巨大地震、地方自治体の崩壊、世界的な資源枯渇と気候異変、そして妻と自身のガンまでを体験した主人公は2050年を迎え、今年50歳となった。バイオテクノロジーを学んでいる長男は20歳を迎え、地方行政への就職を目指し、高校生の長女は、諏訪流鷹匠の見習いをする傍ら、農業大学への進学を志ざしている。人生90年の時代を視野に入れながら彼は、持続可能な社会システム、地域システムのあるべき姿を夢見ていた。

公益と事業益を両立させたキャリアが評価される時代

冒頭から、唐突な絵空事にお付き合いいただき恐縮だが、この物語の背景には、確からしい裏付けがある。私は2017年度、経済産業省が主催した、「超高齢化社会時代のキャリアデザイン検討会」、通称「ビンテージソサエティ研究会」の委員を務めた。そこでは、多方面の委員からさまざまな情報提供と提言がなされたが、そのなかで記憶に残るライフデザインのエッセンスについて、お伝えしたいと思う。

まず、人間には、3パターンの人種がいる。それは、「創造者」、「管理者」、「作業者」である。このうち、最も数が多い管理者は、AIやIoTに代替され、持続的なキャリアデザインを獲得できるのは、ものや新しい価値、革新をもたらす創造者、そして熟練技能を手にしている作業者だと結論づけられた。「私は、大企業で、営業担当役員をやっていました」。こうした退職者には、ほとんど求人がないことを人材紹介会社から教えられた。

また、成功するキャリアデザインのパターンについても、具体的な情報提供があった。松竹梅で例えれば、まず梅は、40代でベンチャー企業を起業。竹は、50代で大企業から中小・中堅企業に転職。開発系の責任者として、定年のない長期就業を形にするキャリアデザインだ。そして、松は、企業人時代の実績とネットワークを活かし、複数企業との顧問契約を結び、マルチインカムを実現する就業の選択だという。

そして、重要なポイントは、公益と事業益を両立させたビジネス実績を持っている人々には、熱い求人が殺到するという。開発した製品そのものが高い環境貢献性を備えている実践。サプライヤー育成を通じた高品質原料の安定供給など、バリューチェーンを最適化しながら、社会課題を解決しようという実践。ビジネスフィールドにおける人材、周辺産業、輸送インフラ、市場の透明性などを強化する実践、の経験者である。

こうした民間、公共、市民社会の3つのセクターの垣根を超えて活躍、協業できるリーダー人材には、3つのパターンがある。第一の人材は、「社会問題解決イノベーター」。社内外にネットワークを築き、フットワーク良く動き回り、社会問題と自社の解決リソースを観察して、社会問題と解決策の「関連づけ」能力を持つ人材である。こうしたイノベーターはその構想力を活かし、所属企業の事業領域の拡張に、確実に貢献していくだろう。

 第二の人材は、「ソーシャル・イントラプレナー」である。社会問題を解決したいという強い思いを持ち、ロジカルに社内を説得できる人材は、新たな革新的なビジネスを生み出したり、自らのキャリアデザインを充実させることもできる。そして、第三は、「トライセクターリーダー」である。政府やNPO、NGOと協働しながらCSVを推進できるリーダーは、企業、政府、行政、NPO、NGOなどのマルチキャリアを獲得することもできるだろう。

「欲求の5段階」を発表したマズローはその晩年、6つ目の欲求として、「自己超越」を提起している。自我を忘れ、理想的な目的の達成のために没頭する、自己を超越した境地のことである。自己表現を拡張し、認知世界を拡張した人々は次の段階で、他者や社会との共創や互恵、そして次世代との協調や投資の意義に気づき始める。利他的な「自己超越」という価値観こそが、これからのライフデザインの大きなコンセプトになっていくだろう

筆者の恩師である、ユニバーサルデザインを提唱したロナルド・メイスは、「70億人の多様な地球市民たちとのシェア」、「次代のユーザーである、まだ見ぬ子孫たちとのシェア」、「次代に継承すべき価値を生み出した、先人たちとのシェア」、「人間だけでなく、すべての生物や自然生態系とのシェア」を提起していた。こうした多様で本質的な”シェアードバリュー”を実感できる人材こそが、チャーミングなキャリアデザインを獲得できるのだ。

赤池 学(あかいけ・まなぶ)

(株)ユニバーサルデザイン総合研究所所長
1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。1983年静岡大学大学院中退。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組む。(社)環境共創イニシアチブ、(社)CSV開発機構の代表理事も務め、グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

【あとがきにかえて】

2018年1月からスタートし、「Smart Join Style」を自ら実践する25人の方々に登場いただいた本サイトでの事例紹介も、今回で一旦区切りとなる。
時には長野県飯田市で寝食をともにしながら農作業を手伝い、また時には家島諸島でヨットに同乗して取材を行ってきたが、ここで紹介した一人ひとりは、本当に大きなエネルギーと情熱に満ちあふれた人ばかりであった。
「自分の好きなことをもっと追求したい」「社会課題を解決したい」。人それぞれに「Smart Join Style」へのアプローチは異なるものの、自身がもっている仕事やスキルを活かしながら新しい“こと”、新しい“場所”に、目を輝かせながらチャレンジしている姿は、読み手にも大きな刺激となったことだろう。

赤池氏は寄稿で、独自の視点で近未来の「Smart Join Style」の姿を指し示した。
仕事、ライフスタイル、社会課題……。さまざまな事柄が時代とともにダイナミックに、そしてスピーディに変貌していくなかで、我々はその変化を敏感に捉え、アプローチしていくことが重要であろう。
世界が変わり、新しいものが生まれるのと同時に、我々がチャレンジできるフィールドは広がっているのだから。

最後に、終業後息を切らしながら取材場所に駆けつけてくれた方、休日にも関わらず快く取材に応じてくれた方、「Smart Join Style」の道標を示してくれたすべての方々に感謝したい。

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